大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋高等裁判所 昭和28年(う)1037号 判決 1953年11月30日

控訴人 検事 小宮益太郎

被告人 高味光春 弁護人 奥村仁三

検察官 竹内吉平

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役二年に処する。

原審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

本件控訴の趣意は岐阜地方検察庁検事正代理次席検事小宮益太郎名義の控訴趣意書に記載されている通りであるから、これを引用する。

本件記録を精査し原審並に当審において取調べた証拠によれば被告人は本件放火未遂罪により昭和二十八年四月十日勾留状の執行を受け岐阜刑務所鷹見町拘置支所に勾留中同二十七年十一月十二日大垣簡易裁判所において窃盗罪により言渡された懲役一年六月の刑が同二十八年四月二十三日確定し同年五月二日よりその刑の執行を受けるに至つたこと明白である。しからば右懲役刑の執行と未決勾留とは尓後観念上併存することは相違ないところであるが事実上は唯懲役刑の執行としての一個の拘禁のみが存在するに過ぎないのであるからこの場合において未決勾留の本刑通算をなすに際り懲役刑の執行と重複する未決勾留日数を算入するときは不当に被告人に利益を与える結果を生ずべきを以て斯かる重複する部分の未決勾留日数を算入するは違法の措置であると謂うべきである。然るに原判決は所論の如く右重複する部分の未決勾留日数を本刑に通算するという趣旨の言渡をしたのは刑法第二十一条の適用を誤つた違法がありその違法は判決に影響を及ぼすこと明白であるから論旨は理由がある。

よつて刑事訴訟法第三百九十七条に則り原判決を破棄し且つ原審並に当審において取調べた証拠により直ちに判決ができるものと認め同法第四百条但書に従い更に本被告事件につき次の通り判決する。

当裁判所の認めた罪となるべき事実及び前科並に証拠は原判決摘示と同一であるから茲にこれを引用する。

法律に照すと被告人の所為は刑法第百八条第百十二条に該当するところ前科(三)がありこれと同法第四十五条後段の併合罪の関係にあるから同法第五十条に則り未た裁判を経ない本罪につき処断することとし所定刑中有期懲役刑を選択し且前科(一)(二)と夫々累犯の関係にあるから同法第五十六条第五十七条第十四条により累犯の加重をなし同法第四十三条前段第六十八条第三号に則り未遂減軽し更に酌量の余地ありと認め同法第六十六条第六十七条第七十一条第六十八条第三号に則り酌量減軽した刑期範囲内において被告人を懲役二年に処すべく原審における訴訟費用については刑事訴訟法第百八十一条第一項を適用し全部被告人をしてこれを負担させることとする。

よつて主文の通り判決する。

(裁判長判事 羽田秀雄 判事 鷲見勇平 判事 小林登一)

検事小宮益太郎の控訴趣意

原判決は法令の適用に誤があつてその誤は判決に影響を及ぼすことが明かである。即ち

一、原裁判所は昭和二十八年八月十九日被告人高味光春に対する本件放火未遂被告事件について懲役二年未決勾留日数中六十日を右本刑に算入する旨の有罪判決の宣告をなした。

二、而して被告人高味光春が原判決において未決勾留日数の本刑通算を受くべき前提となつた。同被告人の身柄拘禁期間は本件放火未遂罪により勾留状の執行を受けた昭和二十八年四月十日から勾留更新を受けて判決宣告の日に至る百三十二日間であると思料せられるところ、原裁判所における公判記録によれば同被告人は昭和二十七年十一月十二日大垣簡易裁判所において窃盗罪により懲役一年六月に処せられ、名古屋高等裁判所に控訴していたが右は昭和二十八年四月八日控訴棄却となり同月二十三日確定したため本件放火未遂罪の勾留状執行中の同年五月二日から右確定刑を執行せられるに至つたことが明かで現に同日鷹見町拘置支所より岐阜刑務所に身柄移監の上以後引続きその執行を受けている。

然し本件勾留の取消も受けず引続きその執行をも受けていたことは前記の通りであるから被告人の身柄拘禁期間中同年五月二日以降は勾留状の執行と、確定刑の執行とが併せ行われていたもので所謂重複拘禁を受けていたことが明かである。

因に本件勾留状の執行のみにより身柄拘禁を受けた期間は同年四月十日から同年五月一日に至る二十二日間であるに過ぎない。

三、従て原判決が本件の未決勾留日数中六十日を本刑に算入したことは前記重複拘禁の期間をも含めてなしたことは疑いないが凡そ他罪の刑の執行中において新たな被告事件につき勾留状の執行をうけるに至つた場合若くは被告事件の勾留状執行中において前刑につき執行をうけるに至つた場合において、尓後各執行が併行して行われうることは争いない点であるがかかる重複拘禁の場合その期間を含めた未決勾留を本刑に算入することは、本来同一の身柄拘禁によつて確定刑の執行と算入による本刑の執行とが二重に執行せられることとなり、かゝる結果は被告人に対し不公平な利益を供与することゝなつて実質的にも不当であるばかりでなく未決勾留の本刑算入を未決勾留を以て本刑に換えるものとする刑法第二十一条の精神に適さないものである。

四、以上の理由により本件未決勾留日数中二十二日間を超えた六十日を本刑に算入した原判決は刑法第二十一条の適用を誤つたものでその誤りが判決に影響を及ぼすことが明かであるから原判決は破棄を免れないものと思料する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例